第3章:海辺の約束

斎場御嶽での再会から数日が経ち、直人は菜々子のことが頭から離れなかった。斎場御嶽を一緒に訪れたあの日、二人はそのまま南城市の近くにある「ニライカナイ橋」へと足を運んだ。壮大な景色が広がるこの場所は、まるで天国へ続く道のように感じられ、二人はしばらく言葉を交わさずにただその景色に見入っていた。

その後も、連絡を取り合い、短い滞在期間の中で何度か会うことになった。最初の偶然の出会いが嘘のように、二人はお互いに引き寄せられ、自然と共に過ごす時間が増えていった。

「次は、どこに行きましょうか?」
ある夕暮れ時、菜々子が尋ねた。

「まだ見ていない場所がたくさんあるけど……海辺でゆっくりするのもいいかもしれないな。」
直人は少し考えた後、答えた。彼は沖縄の美しいビーチを訪れることがまだなかったので、せっかくなら菜々子と一緒にそれを楽しみたいと思ったのだ。

「じゃあ、北谷のアメリカンビレッジ近くにあるサンセットビーチはどう? 夕陽がとても綺麗だって聞いたことがあるの。」
菜々子は提案し、直人はその案に即座に同意した。

二人はレンタカーに乗り込み、北谷(ちゃたん)へ向かうことにした。車の中では沖縄特有の音楽が流れ、窓の外には広がる青い海と空。会話は絶え間なく続き、二人の間にはすでに親密さが漂っていた。

夕暮れ時、サンセットビーチに到着した。オレンジ色の夕陽が水平線に沈む瞬間、空は一瞬だけ黄金色に輝き、波打ち際で戯れる人々のシルエットが映し出された。直人と菜々子は少し離れた静かな場所に腰を下ろし、その美しい光景を黙って眺めた。

「本当に綺麗ですね……まるで映画みたい。」
菜々子が感慨深く呟く。

「うん……この瞬間をずっと忘れたくないな。」
直人もまた、感動した様子で答えた。

二人はしばらくの間、言葉を交わさずにただ海と空に心を奪われていた。やがて菜々子が口を開いた。

「実は、直人さんに言いたいことがあったんです。」
少し緊張した表情を浮かべながら、彼女は言葉を選んだ。

「どうしたの?」
直人はその様子に驚き、優しく問いかけた。

「私、明日東京に帰らなければならないんです……」
菜々子の言葉は、まるで静かな波が突然押し寄せてきたかのように直人の胸に響いた。

「そうか……」
直人は何も言えず、ただその事実を受け止めるしかなかった。短い間に築かれた二人の関係が、突然終わってしまうような感覚に襲われた。しかし、彼は彼女の言葉を責めることはせず、そっと静かにその場にいた。

「この時間がとても幸せで、だからこそ、明日が来てほしくないって思ってしまって……」
菜々子の声は少し震えていた。

「僕も同じだよ。でも、こうして出会えたことが奇跡だと思うし、この瞬間があるだけでも、僕は十分に感謝している。」
直人は微笑みながら、彼女の手をそっと握った。彼女の手は少し冷たく、それがまた、彼女の不安を表しているようだった。

二人はそのまま日が完全に沈むまで座り続けた。暗くなったビーチに、夜風が少し強く吹き始めた頃、菜々子が再び口を開いた。

「直人さん、もし東京に戻っても、また会えますか?」
彼女の問いに、直人は強く頷いた。

「もちろんだ。僕も東京に住んでいるし、絶対にまた会える。約束しよう。」
直人は真剣な表情で、菜々子の目を見つめた。

「ありがとう……」
菜々子は安心したように微笑み、その夜、二人は再会を約束して別れた。

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